なるほど健康講座

『 おそるべし歯周病 』

ハーモニークリニック 内科 松林洋志

■世界中で最も多い細菌感染症

 歯周病は世界中で最も多い細菌感染症であり、中高年において歯を失う原因の第一位としても知られています。虫歯と違って痛みがない事が多く、いつの間にか進行します。口腔内が不衛生になると歯垢(しこう)が歯に付着します。「歯の垢(あか)」と書きますが、その実態は「細菌の塊」です。慢性的な菌の感染は、いつしか歯槽骨を破壊し、土台を失った歯は、抜けてしまうのです。困ったものですが、実はこの歯周病、それだけでは終わりません。多くの研究により明らかとなった、歯周病の真の恐ろしさが今、注目を集めています。

■歯周病が糖尿病を悪化させる

歯周病に罹患する事で、動脈硬化や糖尿病悪化など、全身に悪影響が及ぶ事が判明してきました。その中でも特に糖尿病との関連性が注目されています。歯肉の奥に歯周病菌が侵入する時、そこでは免疫を司るマクロファージと菌との攻防が繰り広げられています。この時に産生されるインターロイキン6やTNF-αと呼ばれる物質が、インスリンの働きを阻害してしまうのです。インスリンの働きが鈍くなるので、糖尿病は悪化してしまいます。そしてあろうことか、糖尿病は免疫力を低下させる病気でもありますので、糖尿病が悪化すると歯周病も悪化します。歯周病が悪化するので、糖尿病はさらに悪化するという悪循環に陥るのです。また、心筋梗塞に至った冠動脈から、口腔内にしか存在しないはずの歯周病菌が見つかったという報告もあり、歯周病菌が血液の中に侵入する事で動脈硬化を悪化させる可能性が示唆されています。

■一石二鳥以上の治療効果

40代になると、程度の差はあれども実に80%の人に歯周病があると言われています。決して他人事ではありません。歯科で定期的な歯の診察を受ける事、歯周病のリスクを回避する事、丁寧な歯磨きをする事が肝要です。喫煙は糖尿病と並ぶ歯周病の二大リスクなので、禁煙する事も大切です。初期の段階では炎症は歯肉に止まっており、適切な歯科治療で完治させられます。既に重度の歯周病に至っていても、適切な治療により全身状態が改善する事もありますので、まずは歯科に相談してみることです。糖尿病と歯周病が密接に関連しているという事は、近年の多くの研究により、疑いなき事実となりました。この事実はつまり、「歯周病を良くすれば、糖尿病が改善する」とも捉えられます。実際に、色んな薬を飲んでもなかなかHbA1cが低下しない糖尿病患者さんにおいて、歯周病を完治させたらHbA1cがグっと低下したという例は多数報告されています。歯周病を治すことによる恩恵は、一石二鳥以上のようです。これを機に自分の歯としっかり向き合って、歯ッピーライフを手に入れましょう。

 

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